昔々ある岩山に。
岩を叩く妖怪がいたそうな。
来る日も来る日もクライマーが登れるように。
リップに積もる雪を叩いて落としていたそうな。
なぜだろう。
珍しく寝つきが悪かった。
二人のいびきを聞きおくってから就寝。
そして誰よりも早く、五時半起きた。
ダラダラとインスタを見て時間を潰した。
寝不足だが、気分は悪くない。
しかし胸騒ぎが止まらない。
全員で朝飯を食べに行った。
出た。
ヨーグルトと茶碗蒸し。
朝食の謎のコンビネーションは、改善する気がないようだ。
胸騒ぎの原因は一つではなかった。
目指す先に見える瓢ヶ岳。
どう見ても昨日より白銀に見える。
見えないことにした。
入山記録書には誰の名前も書かれていない。
見えないことにした。
UFO岩に着いた。
昨夜のフリクションはどこへやら。
尋常ではない積雪。
妖怪に魂を売ることにした。
妖怪雪ハタキと化した。
リップの雪を叩いた。
一心不乱に。
枕も同様に。
タオルが凍ろうとも。
手袋がなかろうとも。
ただ振り続けた。
そしてほとんどの雪を落とした直後に天候が変わった。
豪雪になってきた。
みるみるうちに、また積もってゆく。
もう濡れてても構わない。
どうにでもなれ精神。
上裸で撃った。
いけるはずもなく、僕と軍曹以外は完全にもう岩場に心はない模様だった。
しかし唯一撃てそうな『マジック』初段をとーまさんが見つけた。
マジックだけ撃つ時間をください。
軍曹の一言で、撃つことにした。
とーまさんがオブザベに付き合ってくれ、みゆきちゃん、ちささんと撃った。
噂通りのリーチ課題と思いきや一度遠い一手が取れた。
しかしその一回以降、寒さと左手の痛さで、ろくに保持できずメンタルブレイク。
軍曹とみゆきちゃんは、ラスト一手手前まで行っていた。
本当に強すぎ(笑)
軍曹の接待は、みゆきちゃんに任せ、みんなとバックドロップごはん。
そして一人で『宇宙3』初段を見に行くと、日光で乾き、スタート以外は良い感じ。
みんなを呼んで、セッションを初めた。
一度触ると、昔の記憶がはっきりと呼び起こされた。
ムーヴはすぐ決まったが、ラストの一手で落ちた。
一抜けかと思いきや、軍曹に先を越され二抜け。
その後は、宇宙3 VS チコフさん、たけちゃん、づめさん
全員宇宙とは戦った経験あり。
先週と同じ危ない落ち方でスタートしたづめさん。
瞑想で勢いのついたたけちゃん。
絶対いけるやつと意気込むチコフさん。
軍配が上がったのはチコフさん。
足を丁寧に刻み、最後も文句なしのマントル返しで無事昇段。
おめでとうチコフさん。
僕は隣で『ナメック星人』初段をゲット。
スタンスわかったら、サクッと返せた。
そして温存していたちささんとみゆきちゃん。
遂に『枕』初段へ。
僕はどれほどの寝心地の枕か確認程度。
一度触って完全に心が折れた。
急に現れたガビガビの岩質に指が対応できなかった。
軍曹はバラシまで、ちささんは前回の確認と修正。
各々力を出し尽くした。
靴をドロドロにしながらも瓢をしゃぶりつくした。
帰りの入山届。
僕等以外の名前が書かれていなかったことは内緒。